2019年3月13日
母の血液検査の結果、例によって白血球が激減していた。ということでまた次の一週間は休薬になる。一方、がんマーカーの値はフラットなままで下がる気配がない。来週もう一度診察に来るように言われて母はまたぐずぐずになる。
薬も効かないし治療をやめたい、もう死んでもいい、子どももみんな死んでいいと思っている、帰る家も無い、などなど。
主治医はこんこんと説明してくれる。
薬による治療をやめれば状態は急激に悪くなり、最悪寝たきりになるかもしれない。薬で病気を抑えれば活動できる期間を長くすることができる。治療は完治を目指すのではなく、QOLの維持のため。今はまだ肝臓も腎臓も元気だから、今、治療を投げ出すのは早い。と言うか、今やめると口にするのも苦痛なだるさに苦しむ期間が長くなってしまうだろう。痛みの緩和はできるけれど、それも限界がある。苦しみの期間を短くするというだけの目的であっても治療をやめるべきではない。家族にも思いがある。ここまでは頑張って欲しいとか生きていて欲しいとか。
母が私に振り向いて、どう思うかと訊く。私は、お母さんが辛い思いをする可能性が低いような選択をするべきだと答える。すると母は、”ほら、こんなことしか言わない。もう死んでもいいと子どもは思っている。” と言う。母は、”お母さん、死なないで”とすがりついて欲しいのか。そう言えば、母と付き合いの長い治療仲間の女性(母よりずっと若い)が、”娘にまだ死なないで欲しいと言われたからがんばる”、と母に語っているのを聞いたことがある。母も子ども達にそう言われたいのだろうか。でも20年に亘って頑張っている母に、私は今更がんばって、死なないでって言う気持ちになれない。ここまでくれば、せめて辛くないことが一番大事だと私は思っていいる。
主治医との会話は、緩和ケアについてになる。緩和ケアは母が思うように死期のためだけにあるのではなく、通常治療をしながら辛さを緩和するために施され、状態が良くなれば退院したり緩和ケアを中断したりしながら、続けていくものになっている。在宅で提携の訪問医を介して続けていくこともできる。
”在宅?家なんかありません”、と母が言う。”いえ、家はあります”、と私が言う。主治医は困ったような顔をする。
”とりあえず、治療を今後どうするのか家族のみなさんと話し合ってみてください”、と主治医が言って、今日の診察は終了した。40分が過ぎていた。
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